ガマク

「ガマクを入れる」

詠春拳の小念頭をこの数年間継続していて、特にこの1年は1日も休まずに続けています。この期間に私自身の立ち方が大きく変わったのですが、特に20代の頃、詠春拳を習い始めたころは剛柔流空手道で学んでいた「ガマクの入れ方」に大きな影響を受けていたように思います。

「ガマク」については、指導者や流派によっても微妙に解釈が違うように感じられますが、基本的には腰〜下腹周りの部位を「ガマク」と呼び、剛柔流空手道では骨盤巻き上げの動作を「ガマクを入れる」という言い方をしていました。那覇手の基本的な立ち方である三戦立ちを例に取って見ましょう。

三戦立ち

私が習ったやり方で書いてあるので、両拳は基本的に肩の外には出していません

三戦立ち

足幅は肩幅、後ろ足のつま先と前足の踵が並ぶ、後ろ足の外側がまっすぐ前を向き、前足は60度程度内側に締めると習いました。

いったん上半身のコツについては置いておいて、ここでは剛柔流で習った「ガマクを入れる」動作について触れます。

「ガマクを入れる」

三戦立ちに立った状態から、骨盤を前に入れるようにして臀部の筋肉(主には外旋六筋)を締めるようにします。このような締め方をすると、両方の大腿骨に「外旋」するような力がかかり、それが下腿、足裏まで伝わって、地面に対して足先を広げるようなねじれる力がかかります

剛柔流の道場で基本的かつ重要な鍛錬型である「三戦」を経験したことがあれば、指導者が練習生の肩や脇腹(チンクチ)を叩くのに加え、後ろから股間への蹴りを入れたりすることを知っていると思います。このガマクがしっかり出来ていないと、後ろからの蹴りで金的に強い衝撃を受けることになってしまうのです。

一時、型の演武をするときに、この動作を勢いよく行う癖がついてしまったことがありました。ある先輩がそのように行っていたからです。

私の動作を見て剛柔流の師範は「この動作はじわっと分からないように行うのであって、そんなハッキリ勢いよく動いてはいけない」とおっしゃったことを覚えています。

その後成人してから詠春拳のスクールに通い、二字紺羊馬を習いました。

二字紺羊馬

剛柔流のときとは違い、膝や腰、そして腹の力を抜いて立つように指導されたのでそのようにしたつもりでしたが、やたらと足が開く方向に力がかかるし、足の外側に極端に力がかかる感覚がありました。人間のアライメントとしてはかなり不自然な形ではあるので、膝の内側もかなり痛くなります

ある日鏡で見ると、足先はある程度内側に向いているものの、下図のように膝が開いた感じになっていることに気づきました。

二字紺羊馬

このイラストは、ブルース・リーのオークランド道場の共同経営者であり、ジュンファングンフー(ブルース・リーの初期の武術)のインストラクター認定を受けたジェームズ・リー(James Lee/厳鏡海)先生がモデルです。つま先が正面を向いていて、私が習ったものとはかなり趣が異なります。(※)

※ ブルース・リーは13歳から武術を始めた、と言っていますがおそらく15歳までは同級生のウィリアム・チュン(William Cheung/張卓慶)先生から教えてもらっているはずです。動画や指導書で確認する限り、つま先を正面に向ける二字紺羊馬はこの先生から来ているような印象ですね。ただ、1960年代後半にさしかかったころのブルース・リー自身の小念頭を見るとつま先を内側に入れているようにも見えます。いろいろ試していたのかもしれません。

私の膝が外に向かいやすい感覚はその後もかなり長く残ってしまいました。おそらくは「三戦」で身についたガマクを入れる感覚が影響していたのだと思います。

https://kknews.cc/history/n3nr4lq.html

このサイトで葉問宗師の二字紺羊馬で攤手を行っている写真を見ることができます。宗師の立ち方では骨盤が前に出て後傾し、下腹から大腿部へのラインがまっすぐになっていることが分かると思います。詠春拳を習うに当たり、葉問宗師の写真を眺める機会が多くなったため、私の場合は剛柔流のガマクのイメージを重ねていたのでしょう。

ですが、特に私にとっては足先を極端に内側に入れた状態で骨盤を前に入れて後傾させるのは結構難しく、いつまでも不自然さが抜けませんでした。先生に習った形で自然に立てる方法を研究したところ、「私の場合は」骨盤を前に出さず、まっすぐ下に落とすほうが良さそうであることが分かりました。先生がおっしゃっていたように足裏全体に力がかかるようになり、上半身の力も抜きやすくなって、いろんなものが「下に落ちる」感覚がつかめるようになってきたのもここからです。上記のサイトにはブルース・リーの二字紺羊馬の写真もありますが、この腰の落とし方に近い感じですね。ただし、私の場合は足先をもう少し内側に入れます。

後に、廣戸聡一先生のレッシュ理論4スタンス理論を勉強してみたところ、おそらく私はB1というタイプで、背骨に軸を通すように操作した方が良く動けるし力も出しやすいことが分かりました。私の場合は骨盤を立てることでそれが実現できたのだと思います。

もちろん、葉問宗師は葉問系詠春拳の始祖であり、見本としては葉問宗師の立ち方が正しいといえます。ただ、4スタンス理論に限らずに言えることですが、人の特性は百人百様ですので、ある程度修行が進んだら自分に合った方法を試してみる努力も必要になってくるでしょう。

高校の空手道部で初段を取っただけの私がガマクについて述べるのはおこがましいかも、とは思いました。けれども、自身の小念頭の修行を通じて気づいたこともありましたので、記事として取り上げてみました。

そうだ。今書籍を整理中で手もとにありませんが、「福建鶴拳秘要」という書籍があります。

https://www.lionbooks.com.tw/Detail.aspx?ProductID=B-S058

私が所有しているのはこの古い版だと思います。この書籍に、空手の三戦にそっくりな立ち方をしている写真が掲載されていて、記憶ではしっかりガマクが入っているように見えました。空手は裸足だし、鶴拳は靴を履いているので、身体操作には微妙な差があるとは思います。それでもかなり興味深い書籍です。

見つかったら改めて紹介させていただきます。

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