詠春拳を習い始めてしばらくの間、黐手を行うと両側の三角筋が疲れてしまって仕方がなかった。
そんなある日に先生がおっしゃったこと。
- 肩の筋肉を使って両腕を支えているとそうなる。初心者の多くはそうだ。
- 正しく練習をすると背中、肩甲骨周りで支えているような感覚になってくる。このようになると黐手でも肩は疲れなくなってくるだろう。
- この腕を支える感覚は次第に肩甲骨周りから背中全体に広がっていくはずだ。
というようなことだったと思う。
残念ながら、ここまでいっぱい「寄り道」をしてしまった私は特に3番目の感覚に対する自信がなかった。
何年か前、せっかく過去に習った武術をこれからも練習しようと思い直したとき、2つめの型である尋橋(chum kiu)の冒頭部分についてはしっかり習っていたことを思い出した。ただ、最初から最後まで通して習ったのは小念頭だけだったし、尋橋は技を増やしたりフットワークを覚えたりするくらいだと思っていたので、練習に取り入れようという考えに至らなかったのだ。
試しに、いつもの小念頭に加えて、尋橋の習ったところまで、特に両腕を重ねて体を左右に回転させる練習をしつこくやってみたところ、「あっ」と思った。それまで、小念頭をしっかりやっていたことも大きかったのだろうが、肘と肩甲骨、下背部までの全体がつながった感じが明確にあったのだ。
そのとき、この件よりもだいぶ前の話になるが、初めて会う詠春拳関係者と会話した際のことを思い出した。
私が
「小念頭しかやっていない」
というと、その人は
「尋橋のその部分は本当に重要だから、せっかく習ったのならしっかり練習をしておくべきだ。本当にもったいないことだ。」
とアドバイスをくれたのだ。
そのころの私は、別の格闘技や武道に興味が集中していて、良く仲間内でスパーリングを行っていたこともあって、そこで役立つ技の練習がメインになっていた。また、その頃勤務していたスポーツクラブで、フィットネスプログラムとしても役立つ格闘技エクササイズを開発する目的もあったから、結局そのアドバイスを活かすまでには至らなかったのだ。
このアドバイスに耳傾けて練習していれば、と今でも悔やまれる。
尋橋を頭から最後まで習ったわけではないが、個別の技については実はほとんどを習っていたらしく当時のノートにもメモが大量に残っていたこともあって、つなげてしまえば一通りできなくもなかったりする。でも、それじゃインチキ尋橋になりかねないので、この型を練習する場合は主に、習った部分の繰り返すように練習している。
おそらく感覚も気づきも、人それぞれだと思う。YouTubeの動画を見比べると細かいコツも、先生方によって微妙に違っているように見える。あくまで私が過去に習った方法での、私の中の感覚体験として捉えていただければ、と思う。
でも…。私にとっては尋橋の冒頭部分は重要だった。