順腰・逆腰

詠春拳の直拳

空手から詠春拳に移ったとき、写真で見ると非常に似た形の突きをするのに、打ち方が全然違うことに新鮮さを覚えたことがあります。

空手と詠春

空手では突きを打つときに、先に腰を切って拳を飛ばし、最後に腰を戻すことでムチの先端のように拳を走らせるようにしていました。結果、インパクトの瞬間には腰が逆方向に戻っている「逆腰」になることが多かったのです。

それに対して、詠春拳だと先に腰を切る動作を一切行わず、いきなり拳を打ち出します。胸の前にある拳を、チカラを抜いた状態で前方に放り投げるようなイメージですね。そしてインパクトの瞬間に腰を入れる、「順腰」のイメージです。このとき、私の場合は踵と腹(腰)、肘がつながったような感覚が得られます。

この打ち方だと打つ前の気配は一切出ませんけど、初期の何年かはどうにも威力を出しにくくて、打ち出しに併せて微妙に上半身の前後の揺れを使っていたような気がします。

この打ち出し方は中国武術の世界では「弾勁」と呼ばれるらしいですけれども、私が習ったスクールでは神秘的な誤解をさせない目的で一切こういう用語を使わなかったので、正確な呼び名は分かりません。

この2種類の突きを比べてみると、結局のところ最後に拳がムチのように走るのは変わりませんし、当たった後のエネルギーの送り方についても、体をぶつけるようにしている、つまり体当たりのような感覚で打っている感じがします。横拳と縦拳で威力の伝わり方の違いはありますが、実は似ているところもあるのですね。

私の高校時代は、空手道部は毎年全国大会に進出するほど頑張っているのに学校側から嫌われていて、設備どころか道場すらありませんでした。このため、裏の福昌寺跡や、雨のときは渡り廊下を使って練習していたのです。そのうち師範が自宅の駐車場を道場に改装されたので、そちらへ頻繁に通えるようになりましたが、そこにあった初めての空手らしい設備、「巻藁(マキワラ)」の姿が今でも印象に残っています。師範はゴム草履を緩衝材にして、その上を荒縄できつく縛っていました。

師範がこの巻藁を打つと、まさしく「ズシンッ」という感じで道場全体に響くような威力がありました。それに対して私たちが打つと「ペちっ」と巻藁の表面ではじかれるような感じになってしまうのです。

私を含む高校の生徒たちは巻藁を突く練習をしてこなかったので、腰を切ったあとに拳を走らせるところで終わっていたんですね。しかし、師範の場合はそこから先があって、インパクトのときに体をぶち当てるような身体操作が加わっていたわけです。私たちがそれを真似すると、今度は力で押すような感じになりがちでした。

詠春拳の直拳は、基本的に不必要なチカラが完璧に抜けた状態からいきなり打ち出すイメージで練習し始めますが、小念頭を長くやると必ずしもそうではないのかな、ということが感じられるようになってきます。

普通に考えれば、完全にチカラを抜いた状態からから一気にmaxの筋収縮なんて効率がいいとは思えません。ですので、中国武術ではチカラを発する前に(発勁)、チカラを溜める処理(蓄勁)を行って、より大きな威力を生む工夫が取られます。この方法はおそらく門派によっても異なると思いますが、詠春拳では小念頭、剛柔流空手道では三戦とか転掌が蓄と発を練る役割をになっているのではないかという気がしています。

この辺りの感覚が私の中でまだ整理できていないので、いずれどこかで書いてみたいと思います。

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