攤手の肘の横位置と前腕の回外・回内

攤手

この10年でYouTubeコンテンツが非常に充実してきて、私のような武道・武術の愛好者が勉強させていただくにも困らない環境になってきた。

最近よく参考にさせていただいているのが、雷明輝師傅の動画だ。

初めて拝見したときに、私たちが習った系統と突きの軌道がそっくりだったことと、この先生が元々格闘家でかなり試合経験を積んでいらっしゃるということから、特に興味を持った。

どの動画だったか不明だが、雷明輝師傅が攤手(タンサオ)を紹介しているときに、肘をかなり内側に入れて掌を回外するように指導していた。肘が外側に出て回内気味の攤手は簡単に崩されるが、肘を内側に入れて前腕が回外していると強い、というのだ。

ここは自分の練習してきたものとちょっと違っていて、こういう細かい相違が自分の中では違和感につながる。

私は習い始めに、内側でもなく外側でもなく肘を自然に落として掌を真上に向けるくらいのフォームで指導をされた。上の図でいうと、一番左側に近い。その当時、図の一番右側のような、肘をかなり内側に絞る方法が書籍などで広く紹介されるようになっていたが、先生によれば「不自然な緊張が生まれるから、内側に絞らないほうがよい」という観点も付け加えられた。

後に、先生は「実は少しだけ、肘を外側に開いている。私の場合はこのほうが力を出せる」と教えてくださった。上の図だとまん中のような形だ。

これについては、一度「太気拳」のセミナーに行ったとき、同じ事を言われたことがある。指導してくださった講師の師匠に当たる方が木刀を持つとき、肘をふわっと外側に開くのだと。

反面、「脇を締める」ために肘を絞るように促す指導者も多い。

実は私も肘は少し開き気味で、前腕も回内気味(掌が少し内側を向く)だ。雷明輝師傅によれば「力が出ない」姿勢だが、私の場合は肘を内側に入れた方が力を出しにくい感じがする。

それにしても同じ先生に習ったはずの指導者の方々が、なぜわずか一代、二代経過しただけでそれぞれの指導法に差が出てしまうのだろうか?

私自身はいずれの方法も、人によっては正解で、人によっては誤りなんじゃないかと思っている。

このブログでは何度か廣戸聡一先生の「4スタンス理論」を紹介してきた。人の姿勢や体の操作タイプは大きく4つに大別できるという理論で、これによれば人によって力を発揮できる姿勢が異なるのだ。

例えば、タイプを判別する方法のひとつに、膝立の状態で相手を引っ張って崩すテストがある。このとき、骨盤を前傾させて少し股関節を屈曲させたほうが強い人と、骨盤を立てて股関節を伸ばした姿勢のままのほうが強い人に分かれるのだ。A1に分類される妻や長男は、股関節を伸ばした方が強く、B1に分類される私と次男は股関節を曲げた方が強い。お互いに得意な方と、苦手な方を試してみると、得意な姿勢を取ったほうが圧倒的に勝利するのを確認している。

これは一例だ。そのほかにも再現性のあるテストが書籍などでいくつか紹介されている。

骨盤の角度と股関節の屈曲伸展で人によってこれだけ得意不得意が出るのだ。肘の角度ひとつとっても、得意不得意が変わってくることは十分に考えられるだろう。

おそらく、肘の位置だけが重要なのではない。例えば二字紺羊馬の姿勢を取ったとき、軸を胴体のまん中に置くか背骨側に置くか骨盤を後傾気味にするか、前傾気味にするかなども同時に調整する必要がある。それぞれの関連性がちぐはぐだと思ったようなパフォーマンスを発揮できないと思う。

もちろん、4つのタイプは大別であって、個人個人の身体能力には同じタイプでも微妙な差がある。これは各自が工夫しなければなかなか発見できないと思う。運動神経がいいと言われるような人は自然に無意識に使いこなしたりもしているが、私のような体育が苦手で動作を覚えるのに時間がかかる不器用人間の場合は特に、小念頭のような精密な型でゆっくりと練って、「これか!」というような発見を繰り返していく必要があると考えている。

武術に限らず、人を育てるのがうまい指導者がいるが、こういったタイプの違いを見抜いて生徒1人1人に対する指導法を変えているのではないかと思う。また、自分と同じタイプの優れた先輩を見つけられると自身の上達も速くなると考えられる。

詠春拳や柔術は今からでも指導者に習いたい、という気持ちはあるが、全く自分とタイプが異なる人を先生に選ぶのも(失礼)難しい。指導者人口(?)もそんなに多くない世界だし。

もう少し若かったらな、とも思う。

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