剛柔流空手道を習っていた頃、師範が口を酸っぱくしておっしゃっていた言葉に「犬脚猫体(けんきゃくびょうたい)」という言葉があります。
当時、高校生である私たちからすると、三戦の鍛錬が極めて「剛」な鍛錬法に見えて、そのイメージから体をガチガチに固めていたのだと思います。三戦の脚の移動や、その他の型の動作を行うにも、その動作を引きずっていたのではないでしょうか。
それを見かねた師範が「犬脚猫体」をことある毎に口にするわけです。
「犬の脚は軽やかで素早く動けるだろう。猫の体はしなやかで柔らかいだろう。剛柔流空手を学ぶことで、そんな体を作っていくんだ」
というような意味でした。
でも、高校時代にはこの師範のおっしゃっていることをあまり真面目に考えていなかった気がします。
高校の部活動というのは、空手の武術的な追求より、「試合に出場すること」そして「勝つこと」が第一義だったからです。ぴょんぴょん跳ねるようなフットワークを取り、剛柔流空手道には見られないような、遠くから飛び込んでのワン・ツー攻撃。しかも、截拳道のストレート・リードではないけれども、肩を思いきり前に入れて上半身が横を向く順突きに体を大きくひねる逆突き。
正直なところ、剛柔流空手道の基本や型の動きとスポーツ組手の動きにはほとんど関連性が見られませんでした。
でも、成人した後に詠春拳を習ったことによって、脱力したりペタッとくっついて攻防したり、相手を崩したりするような経験をしていくと、剛柔流の師範がおっしゃっていた「犬脚猫体」の姿もおぼろげながら見えてきたような気がしたわけです。まあ、ネコ派の私としては「猫脚猫体」という表現でもいいような気はしましたが(^^;)
犬脚で三戦の足運びをしなやかにすることで、素早く、やわらかく動けて、障害物の影響を受けにくくなります。また接近しての足運びは相手に対して自身の動作を読まれないようにする上でも重要な要素です。
ここまでチンクチとか詠春拳の基本的な力とかの話で出てきていますが、肩甲骨周りの動きや柔軟性は極めて重要なファクターです。猫体、というのはあの、肩甲骨周りの柔らかい、しなやかな動きを表現したものかもしれません。そういう体は最小の力で相手をいなすことができ、そのまま攻撃につなげられる連続性ができる。
実際の攻防では犬脚の気配を猫体に現してはならず、その逆もしかり。近づいて接触しながらの攻防になると上半身の緊張で下半身の動きが読み取れたり、逆に下半身の動きで上半身の攻撃が悟られやすくもなります。おそらく師範はそのようなことも含めておっしゃっていたのではないかな…と想像します。
当時習っていた内容のメモとかひもといてみると、そのとき見えなかったものがいろいろとつながるようになってきて、面白い限りです。