JEET KUNE DO FINAL STAGE

JEET KUNE DO FINAL STAGE
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久々にDVD購入

日記ブログのほうにも書いたが、かなり久々にDVDなんて買ってみた。

JEET KUNE DO FINAL STAGE

石井東吾の【ジークンドー・ファイナルステージ】究極のカウンター戦術 [DVD]」である。

日本にもいくつかの截拳道に関連する団体があるが、このDVDでインストラクターを務める石井東吾先生はブルース・リーの直弟子、テッド・ウォン(Ted Wong/黄錦銘)先生の伝に当たる。

石井先生は最近、YouTube動画でその存在を知ったのだが、当代ではずば抜けた技量の持ち主だと感じていた。

今回、DVDでの段階的な説明を拝見して、さらに先生の武術に対する造詣の深さを感じることができた。スピード、威力、戦術、間合いのどれを取っても、創始者のブルース・リーもタジタジとなりそうな技量だ。

私自身はテッド・ウォン先生の系統については動画やお弟子さんの著書でしか知見がないが、「外野から見た」私の印象を少しだけまとめてみる。

FINAL STAGE?

ブルース・リーが作り上げた截拳道の最晩年のスタイルについて、テッド先生はFINAL STAGEと呼んでいたらしい。そして、テッド先生が習得したものはこのFINAL STAGEであると主張されている。

これについてはもちろん後世の呼称で、ブルース・リー本人がそのように主張しているわけではない。石井先生DVDの中で「便宜上」「FINAL STAGE」と呼んでいるというようなことをおっしゃっている。

しかし、本当に最晩年なのか。

ブルース・リーは1971年に香港に渡り、以降亡くなるまでの2年間を過ごしているわけで、彼のことだからこの間にも大いなる進歩を見せていたとは考えられないだろうか。映画撮影で忙しかったとはいえ、もしかしたら、本物の最終段階というのはこの期間に存在しているのかもしれないではないか。むしろこの時期のブルース・リー武術は、映画の取り巻きのスタントマンたちのほうが知っているかもしれない。彼らもブルースに截拳道を習った、と言っているので。

彼らは撮影現場でのトラブルや武勇伝も間近で見たりしたらしく、特に生前4作で共演したトニー・ラウさんは、「ドラゴン危機一発」の撮影現場で現地のムエタイ選手に囲まれ、絡まれたブルースが1発のパンチ(トニーさんのゼスチャーでは近距離のストレートパンチ)で相手を失神させたことや、8人の男に囲まれたときも余裕で倒してしまったということをインタビューで言っている(広東語で喋っていたので字幕頼りだが、ホントのことかどうかは分からない)。

1960年代中期にブルース・リーと一緒に道場経営をされていたダン・イノサント先生は1972年に「死亡的遊戯」の撮影のため香港に一定期間滞在されているはずなので、その頃のブルース・リーの状態にも詳しそうだ。悪名高きアルバート・ゴールドマンの記事によれば、痩せたブルース・リーを見て驚いたイノサント先生が「そんなに痩せて、フルパワー出せるんですか」と質問したところ、「フルパワーだって? それなら見て見ろ!」と肩口にワンインチパンチを喰らわせ、3.2mも吹っ飛ばしたとか(1980年代のGORO誌の記事なのだが、切り離してどこかに保存してしまったため、見つからない。後ほど記事を見つけ出して、裏を取りたい)。

アメリカの「ブラック・ベルト」誌の編集長だったミト・ウエハラさんも”Bruce Lee: The Incomparable Fighter“の中で似たようなことを言っていた。

ブルース・リーが1973年5月10日に香港のスタジオで倒れて重体になったあと、回復してアメリカの病院で脳の精密検査を受けたことがあった。このとき、ブルースに会ったミトさんは、彼のパンチやキックが以前にも増してキレがあり、実際にクッション越しに受けたノーモーションのパンチは6インチの距離から軽く打ったように見えたのに、ものすごいパワーだったとのことだ。

テッド先生も期間的には不明だが、1972年12月にハーブ・ジャクソン氏とともに香港でブルース・リーに会っているそうなので、その頃のブルース・リーの武術に触れる機会はあったのかもしれないが、どの次元がブルース・リーのFINAL STAGEだったのかとか、そのあともご存命ならどのレベルまでいかれたのか、いろいろ思うところがあるので、私自身はやはり、このFINAL STAGEという表現には疑問があるわけだ。

ピュアな截拳道

ミトさんは、”Bruce Lee: The Incomparable Fighter“の中でテッド先生について以下のように述べている。

当時、ブルースの一番弟子はダン・イノサントだったのだが、私はブルースが亡くなるまで、テッド・ウォンがそうなのかと思っていた。テッド・ウォンはブルースが亡くなるまでの数年間、ずっと彼の練習相手を務めていた。また、水曜日の夜の練習以外にも、毎週末、ブルースに会いに来ていた。ブルース・リーにはスパーリング・パートナーが必要で、それがウォンだった。(「ブルース・リー ザ・ファイター」M.ウエハラ/著 松宮康生/訳)

テッド先生の弟子、テリー・トム先生が書いた「ストレートリード」について、過去に日記ブログのほうで紹介したことがある。この書籍でも、私が上に引用した部分(イノサント先生の記述部分を除く)が截拳道練習館 Tiny Dragonさんの訳にて紹介されている。

前者は省略して日本語として自然にしているところがあり、後者は強調する文言を付け足してテッド先生を際立たせている印象がある。

(私がマーカーを引いた部分は、今でもそう思っているのか、I still think 〜 before 〜. 死ぬまで思っていたのか、ニュアンスが分かれるところかと思った。)

原文とこれらを見比べていただければ、と思う。

テッド先生がブルース・リーに会ったのは1967年で、ブルースの武術がJun Fan Gung Fu(振藩功夫)と呼ばれたスタイルから截拳道への転換期に当たる。テッド・ウォン先生はそれまでに武術の経験は無かったようなので、本当にピュアな截拳道の生徒であったといえるかもしれない。ブルース・リーが截拳道を突き詰めたのは6年であり、テッド先生は亡くなったあともリー先生の武術を亡くなるまで37年間も続けられたと考えられる。こと截拳道に関していえば、ブルース・リー以上の体現者であると私は考える。

基本はひとつでも、全部は同じにならない

しかし、これも外野から見た印象だが、幼少期から中国武術に馴染んで基礎から練ってきたブルース・リーの体の作り方と、截拳道から始まったテッド・ウォン先生では体の作り方が当然違っていて、微妙に構えも打ち方も違って見えないか

実際、ブルース・リーの截拳道はテッド・ウォン先生がおっしゃるように、詠春拳とは全くかけ離れた技術体系で成り立っていて、打ち方ひとつも異なっている。ただ、「ストレートリード」という書籍の記述は決めつけが激しい印象があり、外野的にはいかにもアメリカンな感じがするのだ。

例えば、ブルース・リーが截拳道を「剣のないフェンシング」にしてしまったことは、彼のお兄さんがフェンシングの香港チャンピオンだったことは関係ない、みたいなことも書いてある。その証拠として、ブルース・リーが語っていたことや書籍の書き込みなどを挙げられているわけだが、それは必ずしも反証にはならない。最近、フェンシングのユニフォームを纏った少年時代の嬉しそうなブルース・リーの写真も見つかっていることだし、直接の転機ではないにしても、馴染みがあったことは確実で、影響ゼロとはいえないのでは?

ストレート・リードについても、クラシカル・ボクシングの影響がすべて、みたいな書き方はどんなものか。詠春拳とは打ち方が全く異なることは誰がどうみても一目瞭然だが、もともと拳での突き技に縦拳しかない、中国でも珍しい武術の詠春拳に馴染んでいたブルース・リーである。縦拳や中指〜小指のナックルパートを使うことに信頼を置いていたからこそ、クラシカル・ボクシングのパワーラインに目を付けたのではないだろうか

実際に、「動く」ブルース・リーとテッド・ウォン先生の動きを比べてみると、その違いを感じる人は多いのじゃないかな。ここまで何度もこのブログで述べてきたように、各人の特性は異なるので、同じ技術を練習していても全く同じにはならない。

映画やスパーリング、撮影の裏側の映像やトレーニング映像など、ブルース・リーに関してもさまざまな映像が残っているが、彼の動きにはかなり中国武術の「功夫」が色濃く残っている。いちいち紹介しないが、中国武術の達人の方々の多くがそれを指摘していることもあるので、そう感じる人も少なくないと私は考える。

それに対して、テッド先生にはそれを感じない。だからこそピュアな截拳道なのだといえる。

ストレート・リード

ストレートリード」の中のテッド先生へのインタビューで、リードパンチを戻すときに弧を描くやり方は古いやり方だ、と述べているところがある。これって、リードパンチにもTPOに応じていろいろなやり方がある、という見なし方はないのだろうか。ブルース本人も香港で空手家相手のデモで弧を描く戻し方をしていたりもするし…。

all or nothingみたいな表現は私はあまり好きではない。ストレート・リードが截拳道の核心であって、重要で、難しい技術であることは、「ストレートリード」を読むと理解できる。でも、「これ以外は不正」みたいな排斥の仕方をしていくと、それこそ自分自身を「型にはめて」しまわないか。空手の正拳が今の形になって、それ以外の正拳は認めない、というみたいに。

以上は、「ストレートリード」の記述で気になっている部分であって、必ずしもこの書籍を批判するものではない。実は私、この本が好きなのだ。多くの本が本棚の奥にしまってあるのに対し、この書籍は手元に置いて良く読んでいる。このため、ストレート・リードという技術が截拳道の核心であり、本当に大切な、難しい技術であることも分かる。でも、それが金科玉条みたいに、半ば宗教的に崇拝されるのは、ブルース・リーのファンとしても嫌なことだ。

意見はいろいろあっていい。切磋琢磨してもいい。でも、「我こそ正統」の姿勢が際だった挙げ句に、他の指導者や練習者を叩いたりすることは、私はあってはならないと思う。

ようやく今回のDVDに戻って

テッド先生の努力の積み重ね、石井先生の師匠の積み重ね、そして石井先生ご本人の修練の積み重ねがあって、最新の截拳道がある。おそらくは技術体系も体の使い方も、格闘技界、武術界が全般に進んでいる現代に生きる截拳道は、創始者のブルース・リー、テッド先生の時代からはさらに進化したものになっているだろう。もしかしたら、ストレート・リードについても、テリー先生が「ストレートリード」を書いたあともさらに進歩しているのかもしれない。

冒頭に書いたとおり、石井先生の動きは変幻自在だ。意識的に不安定な状態を作って技をかける動きがブルース・リーはとても得意だったように感じるが、石井先生も同様だ。あの動きは正面から見たら技の始まりが全く分からないだろう。

DVDに収録された技は、石井先生の技術体系のほんの一部だろう。今後も「ストレートリード」と併せて、勉強に役立てたいと思う。迷わず手に入れて良かった。

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