Kung-fu Fitness

Kung fu Fitness

スポーツクラブのプログラム

1990年代、スポーツクラブでフィットネスクラブのインストラクターをしていた私は、他のスポーツクラブでは見られないような新しい運動プログラムを開発すること、それを定着させることに注力していました。

そのころに所属していたスポーククラブは、大きなチェーン店とは異なり、成功するかしないか分からないようなプログラムの採用には、かなり慎重でした。特に、私が考えつくのが、そのクラブの売りであった「指定運動療法施設」としての役割とはまた違った側面でのアプローチだったこともあります。

それでも、最終的には会社側の承諾も取り付け、広範囲の会員向けの減量イベントを成功させたり、有料の減量プログラムの導入したりもしました。

併せて、個人的な活動の一環として、パワーリフティングのボランティア参加も試み、クラブの会員様の活動を支えたりもしました。

そんな中、当時の私は何か物足りなさを感じていました。私のバックボーンは、高校時代から本格的に続けていた武道に関する活動であり、これをフィットネスプログラムに直結させたかったのです。

この、武道をベースに置いたフィットネス・プログラムについては、それ以前に所属していた大手企業でも提案していましたが、何度企画しても却下されました。今では普通にどこのクラブでも採用されているプログラムですが、1988年ではちょっと早すぎたのですね。

思えば、今では普通に使われているZwiftのような仮想サイクリングシステムについても、1988年時点でかなり具体的なアイデアを持っていました。もちろん、3D Dataをグリグリ作動させるような発想はなくて、ビデオカメラで記録された映像を元に、坂道やカーブ、再生速度などを調整する案でしたけど。

格闘技プログラムについては、最後のスポーツクラブに所属しているときにようやく実現することができたのでした。当初は、私がメインで練習していたKung fuをプログラム化して、Fitness Kung-fuとか、Kung-fu Fitnessという名前でスタート。

幸い、フルコンタクト空手の高校大会で地区優勝したスタッフや、プロのキックボクサーが社員として所属していたことで、その後、かなり自由な格闘技プロクラムとしてFitness Kと名前を変えました。このとき、私もフルコンタクト空手の突き、ローキック、キックボクシングの蹴りや首相撲を教えてもらったことを覚えています。

フィットネス・プログラム指導中の気づき

Fitness Kのプログラムは、みんなで並んで音楽に会わせてポーズだけを取るだけではなく、サンドバッグやパンチングボール、パンチングミット、キックミットを実際に叩くことを重視していました。当時は「何かを直接叩く」ということがとても新鮮だったようで、女性の方々に好評を得ました。

私が気づいたのは、男性とは異なり、女性は力を抜くのがうまく、カラダのしなりを使ってバッグを叩くとかなりのスピードと重さを両立できるようになるのが早かった、ということでした。特に40〜50代の女性の進歩はすごかったですね。

また、もう一つ気づいたのは、私のカラダづくりのこと。当時の私は、ボランティアではじめたパワーリフティングも並行して行っていました。当然体も大きくなり、自然体重が60kg強だった私の体重は70kg台半ばまで増えていました。

このころ、次のFitness Kインストラクターとして頑張ってもらうつもりで、未経験から詠春拳のプログラムを教えていたスタッフがいました。フルコンタクト空手の経験者とスパーリングしても打ち負けない私の動きを見て、どうしてもこの武術を習得したいと彼のほうから申し出てきていたのです。

その彼が言いました。「体重60kgくらいのときの中原さんは、打たれたら背中が痛くなって耐えられなかった。でも、今のようなカラダになってから(76kgくらい)ちょっと違ってきて、カラダで押してくるような印象が強くなった」と。

私の詠春拳の先生からは、「ウエイト・トレーニングは百害あって一利なし」と言われてきましたが、私自身は半信半疑だったし、また、私の生業がウエイト・トレーニングの指導です。止めることなどできません。

今思えば、このときに私の技の質が落ちたのは、ごく当たり前のことでした。

ウエイト・トレーニングは鍛えたい筋肉に「効かせること」が重要です。つまり、カラダを動かすのに、筋肉の「収縮」および「努力感」を強く意識して、「効率良く疲れさせる」ということを繰り返すのです。その結果、筋肉は強くなっていき、高いパフォーマンスを生むことができるカラダをつくることができると考えます。

でも、武術の動きはその逆の考え方をします。「筋肉の収縮感」ではなく、「効率の良い動作」を習得するように徹底的な努力をするため、どんな動作を行うにしてもなるべく「筋肉が疲れないように」しなければいけません。

私の場合は、「自分にとって」のウエイト・トレーニング量が過剰であったため、「動作を効率的に使う」はずが、武術において「やってはいけない」カラダの使い方に置き換えてしまっていたのです。

つまり、詠春拳の先生がおっしゃったような、弊害のほうが強くなる結果が出始めていたのです。先のスタッフの言葉は、私の筋肉の使い方が「下手になってしまった」ことを的確に伝えるものでした。

それだけではなく、ウエイト・トレーニングで筋力が強くなったことで、使う筋肉を「変えてしまった」ことも大きいと思います。強い筋肉の「動作感」が、本来使わなければならない筋肉群の「感覚」を覆い隠してしまうようになったわけです。

トレーニングと武術の動作と

それでも、実際に筋力がある人は強いです。武術の達人と言われる方々の経歴を見ると、過去に高い筋力を持っていたことを示す資料に行き当たることも希ではありません。彼らは筋力トレーニングで得た「力強さ」をうまく武術の動作に活かせていることになります。

実際、一見すると矛盾を感じますが、「脱力」を唱える中国武術や日本の古武術にも、筋肉を刺激して基礎体力を高めるカリキュラムは多数伝わっています。

私の先輩は、「肩の力の抜き方を分かってからの筋力トレーニングは有用かもしれない」とおっしゃっていました。いくぶん誤解を招きかねない表現ではありますが、今では言いたかったこともある程度分かります。

このことから、筋力トレーニングが武術に全く役に立たないということはなく、やり方や対象の筋肉の選択によっては、効果を上げられる可能性も高いといえます。このあたりについては、今後のこのブログで記事として上げていく予定です。

ここらでいったん、過去の私の話についてのご紹介を終わりにします。今後は、日々の練習の中で得た「気づき」を随時記事としてあげていくことにします。

※ この記事のアイキャッチ。これはFitness Kの宣材写真として撮られたものです。お気づきの方もおいでかもしれませんが、撮影的に難しかったこともあって、蹴りが当たった瞬間を模して一定時間この姿勢で止めていました。なので、実際に蹴る感じとは、ちょっと印象が違っています。