「伝統派」「伝統空手」という言葉は、直接打撃制ルールを採用する空手流派に対して、寸止めのポイント制ルールを採用する団体にする言葉として使われることが多い気がします。今はそうでもないのかもしれませんが、私は昔からこの表現には違和感を持っていました。
「昔ながらの」という意味であれば、直接打撃制ルールに限らず、寸止めのポイントルールも沖縄で行われていた空手とはずいぶん異なり、新しいものです。
実際、伝統というのは、本当のところでは環境に合わせて研究を行い、進化して行くことだと私は思います。その結果、ある程度完成された今の各種流派の形が生まれてきたのではないでしょうか? 沖縄空手は現在広く行われている空手の源流であることは、多くの人が知るところですが、沖縄と北海道では気候も、地形も大きく異なります。
人間は自分の置かれている環境に適応し、なるべく不都合なく生き残る道を模索するものです。その適応の仕方がそれぞれ異なるのは当然であり、その結果生まれたそれぞれが伝統を持っているといえます。
それはともかく、ブルース・リーの技術書の影響を受けたことで、高校時代の私は、空手の蹴り技 + ボクシングの技術が最高なのではないかと思い始めていました。ブルース・リーがそういうことを言っているわけでは決してないのですが、「魂の武器」を出版した人による「偏向傾向のある刷り込み」によるところが大きかったのでしょう。
このようなわけで、高校の部活動で練習したあとは自宅に戻り、弟に無理矢理付き合わせてボクシンググローブを付けたスパーリングも行うようになっていました。
そんな中、部活の練習の延長で、館長先生の本部道場に稽古に行かせていただいたことが何度かありました。大会のための形を指導していただく目的もあったのですが、一度だけ、本部の道場生と組手をさせていただいたことがあります。
私の相手をしてくださったのは、大学(院)生か社会人かは不明でしたが、同じくらいの体格で白帯の方です。当時私は黒帯を締めていたはずで、少し慢心していたかもしれません。
私の組手スタイルは、高校のスポーツ空手、寸止めポイントルールで、両足を前後に大きく開き、飛び跳ね系のフットワークを使うスタイルです。それに対し、相手となる道場生は、猫足立ちで腰を深く引いた姿勢でした。私はその相手に、遠い間合いからフェイントをかけた後、ワン・ツー攻撃を仕掛けるために飛び込みました。
ところがです。その瞬間に私は股間に激痛を覚えました。相手の前蹴りが私の股間に突き刺さったのです。おそらく自然にからだが動いてしまった相手の方は、申し訳ない、という表情を浮かべましたが、幸いこの攻撃が当たったのは硬い恥骨でした。もう少し下、あるいは上だったら、と思うとゾッとしますが、恥骨とはいえかなりの痛みがありましたね。
その後も、私は戸惑いながらも攻撃をしかけましたが、その後相手の方は攻撃を止めてさばきに集中していたのを覚えています。
この出来事は、「必ずしもボクシング + スポーツ空手の蹴り技」が優れているのではなくて、ルールや状況、環境で大きく異なってくるのではないかと思い始めました。これがきっかけで、私は古い空手も研究するようになりましたし、大学に進むころには他流試合をするときに猫足立ちを多用するようになっていました。
まあ、これも極端な話で、猫足立ちが構えとして有効か、万能かというと決してそんなことはありません。空手や中国武術に見られる極端な姿勢の立ち方、というのは動作の中の一瞬を切り取ったものなのではないかと思うのです。最近の書籍をひもとくと、そういうようなことも良く言われるようになってきました。
こちらは私が古流の空手を研究していたときに見つけた、「沖縄伝 武備志」です。ずいぶん絵が下手で奇妙なのは、長年写本が繰り返されたことによるものでしょう。研究者全員が絵の名人とはいえないでしょうから。
資料が少ない時代、古の人たちは少しでもこの資料から何かを吸収しようとしていたのだと思うと、頭が下がります。ちなみに、この画像も「伝統に従い」私が写本したものです。ちなみに沖縄伝、とあるのは、中国にも似て非なる武備志が存在するそうなので、それと区別するためだと思います。
この資料、ひとつの資料では何も分からないので、私の写本はいろいろなところから引っ張ってきていると思いますが、メインでこの書籍を利用して整理しました。
ちなみに、自宅には私が大学時代に写本したジャック・デンプシーの資料もあります。日大三島の図書館で見つけたもので、自分では所有していないため、写本して残そうとしたわけです。コンビニにコピー機とかあった時代ではないですし、なにぶん貧乏学生ですので。でも、写本というだけあって、書かれていたことが頭の中に今でも残っていることを考えればいい経験でした。
ここまで何度か紹介した、「ソウルファイティング 魂の武器」と「截拳道(ジークンドー)への道」にも、ブルース・リーがどこからか写本してきたイラストが多数含まれます。写本、おすすめですよ。