一昨日、ブルース・リーと「ドラゴンへの道」「燃えよドラゴン」で共演されたボブ・ウォール氏の訃報が入ってきました。今年1/31に亡くなられたようです。ブルース・リーを直接知る人が次々とこの世を去っており、仕方がないこととは言え寂しい限りであります。
ボブ・ウォールさん。安らかにお眠りください。
高画質な「ブルース・リーの生と死」
すでに、ブルース・リーの作品LD/DVD/Blu-rayはそれぞれ複数枚所持している関係で、購入を見送っていたこの「Bruce Lee: His Greatest Hits (Criterion Collection) [Blu-ray]」。みなさんのレビュー結果を見ていたら欲しくなり、注文してしまいました。
すでに、別ブログのほうには書きましたが、ここでは画質の面で評判が良かった「ブルース・リーの生と死」という作品について気づいたことについて書きたいと思います。
このBD、私がすでに所持しているVHSやDVDと比べて画質が大きく改善されていることが分かりました。香港の葬儀は驚くほどきれいでもう49年も前のことなのに、胸を抉られるほどの臨場感があります。これが手に入っただけでも、今回このセットを買った価値がありましたね。日本語字幕はありませんが、何度も見たもので内容は把握しているので問題なし。
香港邸宅のトレーニングルームの描写
すでに取り壊された旧ブルース・リー邸。主がいなくなったばかりのタイミングで撮られた映像も高画質で、直前まで彼がどんなトレーニングをやっていたかなどがしのばれます。映像に記録されていた限りでは、彼のトレーニングルームにはバーベルセットやマーシー社のものと思われるトレーニングマシン、ヘヴィバッグ、パンチングボールなど、西洋式の器具しかなく、木人椿やウォールバッグなどは見当たらなかったですね。
部屋やトレーニングルームをくまなく写したわけではないため、もしかしたら中国的な器具類は死角になる場所にあったとか、練習部屋は複数あったなどの可能性もありますが。
1970年代初頭にブルース・リーと葉問宗師が再会したとき、「他の型は忘れてしまったけど、小念頭だけは練習していますよ」と師に告げたという話を聞いたことがあります。これが師への気遣いではなく本当のことなら、晩年のブルース・リーは詠春拳の基礎練習は続けていたことになります。このエピソードが掲載されていた書籍を思い出せないので、発見次第改めて紹介させていただくことにしましょう。
少年時代にブルース・リーが習った武術の紹介
ブルース・リーがアメリカへ向けて香港に発つ直前に師事したという邵漢生老師のインタビューや、老師の道場の映像もきれいで稀少です。ブルース・リーはここで、南派少林拳術の洪家拳や蔡李仏家拳の要素を含んだ技や、北派少林拳術の要素を含んだ節拳を短期間で習得したと言われています。アメリカでブルース・リーが受けたオーディションフィルムの中で、このとき習ったと思われる洪家拳の基礎動作や節拳の型の一部が確認できますし、その節拳については1964年のロングビーチ空手トーナメントや、映画「ドラゴンへの道」でも披露されています。
さらに、邵漢生老師に習った少林拳の開門式という儀式はジュンファングンフーの挨拶にも使われているくらいなので、ブルース・リーはここで得た技術を長く大切にしていたのではないかと思いますね。
そして、私にとっては何よりなのが、ブルース・リーの兄弟子に当たる黄淳梁老師の若き日のお姿。道場での練習風景が写るのですが、お弟子さんがみな引き締まった体をしており、技のひとつひとつが正確で、黐手を見ても練度が非常に高いのです。
1975年の第一回世界空手道選手権大会(極真会館)に出場した香港カンフーの中に「詠春拳の使い手」と言われる人がいて、その彼が二宮城光選手の前になすすべもなく敗れたことがありました。映画「地上最強のカラテ」を見る限り、この「詠春拳の使い手」は気の抜けた小念頭や尋橋をやっていて、「これ、詠春拳なんかマトモに練習してないだろう」という感じだったし、体もダルダルだったので、もともと無理なマッチメイクだと思いました。実際、試合ではこの選手、詠春拳なんか全く使っていなかったし(笑)。せめて、今回の動画に出ている黄淳梁道場生くらいの練度の人を、日本に出稽古したりして経験を積んだ上で出してくれればよりフェアだったのに、と思いました。
燃えよドラゴンのセットでの黄淳梁老師のアクション
YouTubeなどでもときどき見かけるこの「燃えよドラゴン」のセットで撮られた映像は、今回のBDでは大変高画質で収録されており、細かい動きもよく見て取れます。
最初に黄淳梁老師とその弟子の温鑑良老師がラプサオを行うところから始まり、それはそのあと過手に移行します。
その後、偽ブルース・リーのような人、ブルース・リーがシンガポールから呼んだジョイさんという人らしいのですが、このジョイさんがブルース・リーの執事、ウー・ガンさん相手に蹴りのデモンストレーションを行います。
その後、黄淳梁老師とジョイさんが向かい合います。これはマススパーリング(寸止め)になっており、自由攻防です。以前見たときには、黄淳梁老師が一方的に攻め込んでいる印象でしたが、改めて見ると押されているとは言え、ジョイさんが黄淳梁老師の攻撃をほとんどカットできていることが新鮮でした。ジョイさんはほとんど手が出せず、たまに出しても有効打にはなり得ない感じでした。
最後に、ブルース・リー自身が、黄淳梁老師とジョイさんを次々に殴るシーンでこの場面の映像は終了。
この「燃えよドラゴン」のセットでの状況は、「超級龍熱」さんがジョイさんにロングインタビューをされていて、詳細が明らかになっています。
この超級龍熱さんによるインタビューの内容はかなり具体的で、臨場感がある証言で構成されています。ただ、ブルース・リーとジョイさんが「印象的な」スパーリングをしたのを黄淳梁老師が見ていたはずなのに、黄老師やその弟子の温老師のインタビューでは昔からその話が一切出てこないとか、ジョイさんが主張するような攻撃が映像に残っていないなどもあって、すべての話を全面的に信用することはできないかな、とは感じました。基本的にブルース・リー以外の登場人物を悪者のように言うのも、個人的には好きじゃないかな。それでも、多少記憶の行き違いや盛った部分があったとしても、貴重なインタビューだと思いました。
ブルース・リーのヌンチャクさばき
あともう一つ改めて見て感動を覚えたのが、「ドラゴン怒りの鉄拳」の、道場破りの1シーン。実は私自身は武器としてのヌンチャクにほとんど興味を持っていなくて、ブルース・リー映画でもヌンチャクのシーンをあまりよく見ていませんでした。
「ブルース・リーの生と死」に切り抜かれた「ヌンチャクで敵対する道場生をなぎ倒すシーン」で、これがコマ送りで再生される場面があり、思わず目を留めました。このシーン使っていたのは、映画用の小道具ではなく本物の武器である木製ヌンチャクだったこともあると思うんですが(※)、このときのブルース・リーの筋肉の使い方が多分に中国的でバチンバチンと弾けるような感じであり、北派武術的にいうと一発一発の「発勁」が極めて強いのです。改めてこの方は、武器術にも精通しておられたのだな、と再認識した次第でした。
また、映像が高画質だった影響か、このときのブルース・リーの背中に何本かの赤い筋が確認できたことも私にとっては新発見でした。ヌンチャクさばきでは、その動きを胴体で「止める」動きは多々ありますので(「ぶつける」ではない)、その影響ではないかと思われます。そんな点も本当にリアルでしたね。
燃えよドラゴンの地下室での戦闘シーン
ヌンチャクシーン同様、東洋武術的な体使いで発力しながら相手を倒していくシーン。先に紹介したヌンチャクのシーンのように、筋肉をバチバチはじかせ続けるその運動能力には改めてすごいと思いました。これが、他の武術俳優さんとは明確に違う部分ですよね。
過去にもブルース・リー本人と截拳道の生徒さんの体の動きの違いについては述べたことがありますけれども、幼い頃から中国武術に慣れ親しみ、ある程度高度化した段階で新しい体系を作り出したブルース・リーと、純粋な後期の截拳道を修行したお弟子さんたちでは、どちらがいいとか悪いとかでの話ではなく、コアが異なるのは当然のこと。
以上、いくつかのシーンでブルース・リーの動きを見直してみて、未だに新鮮だなあ、と感じた次第です。