詠春拳の「持続的な強い力」についてもう少し

力の運用

最近、YouTubeに詠春拳に関する動作がたくさん出ていますけど、一つだけ気になることがあります。

それは、ほとんどの動画で「(極端な)腕の重さ」とか「(持続的な)強大な力」について触れられていないことです。個人的には、これは詠春拳の主要な特徴の一つだと思っているのですけど。

私が詠春拳の先生に習い始める直前、事始めに先生とスパーリングしたことがありましたが、その時に全く歯が立たなかったという話を過去に書いたことがあります。その大きな理由の一つが、「先生の力が強大すぎた。腕が重すぎて、交戦状態になったときそれは大きな壁になった」ということでした。

確かに、詠春拳は力の化かし方も上手ですし、瞬発的に放つ突きの威力も相当なもので、これらも特筆すべき特徴であることは間違いありません。しかし、私にとっては、もみ合いになったときの「持続的に粘ることができる、尋常ではない『力』」が最も印象的だったし、空手しか知らなかった私からしたら「詠春拳の最大の脅威はこれかもしれない」と感じたものでした。

動画に出演されている方々がこの『力』について語ることがないのは、未だ「隠して」いるのか、それとも「当たり前すぎて触れるほどでもない」のか。

時々、截拳道のインストラクターさんが詠春拳のトラッピングについて「こんなの役に立たないからブルース・リーは捨てたのだ」とおっしゃっているのを見かけますけど、彼らのトラッピング破りのデモを見る限りは表面だけのペラペラな動きを相手にしたものに過ぎません。1993年のダン・イノサント先生系統のセミナーで受けた振藩功夫の黐手も形はなぞられていましたけど、私が体験した先生や先輩、香港から来た習熟度の高い学生さんから感じる『力』のようなものは存在していないように思われました。短期セミナーなので触れなかっただけ、という可能性はあるものの、根本的に詠春拳としては正確なフォームとは言えなかったような記憶があります。一緒に参加していた同門の習熟者(初顔合わせ)も私と同じ感想を述べていました。

詠春拳の本当のトラッピングについてはいろいろ意見はありますけど、おそらく、あの力が備わっていなくては実用には至らないと思います。

私は高校時代に数多くの組手練習、練習試合、トーナメントをこなしましたし、スピードも速かったので、先生とはいえ最初のスパーリングの時にトラッピングされることは全く想定していませんでした。でも、実際にスパーリングをしてみると、いくつもそれを決められてしまいましたし、その力で押さえつけられると全く動けなくなったりもしたのです。崩されているから尚更抵抗できなくなる、いう部分もゼロではないですが、それでもあの『力』そのものが尋常ではなかった。トラッピングに限らず、正面から打ち合っても完全に打ち負かされるほどの力でした。

『力』と表現すると誤解を招く部分もあるかもしれません。先生はウエイトトレーニングなどを一切なさらない方で、一般人と比べても通常の筋力レベルは相当低く、当時フィットネス・インストラクターとして筋力を鍛えまくっていた私と力比べをするといつも私の方が「簡単に」勝っていました。でも、いざ黐手のような練習になると、逆に先生の『力』に簡単に押され、潰され、壁に叩きつけられ、負けてしまうのです。先生に対抗しようと全力を出せば私は一気に疲れてしまうのに、先生は平気。私の筋力と先生の「力」は明らかに異質でした。

当時、北方武術の雑誌で「力」の代わりに「」という言葉が知られるようになっていて、先生にこれを「勁」と呼んでいいのか、という質問をしたことがあります。答えは

「詠春拳の力とは、一般的に言われる力とは出し方が違う筋肉の使い方を改めた結果出せる力。」

勁という言葉についてはあまりにも神秘的なイメージを持たれ過ぎているから私は好きではない。チカラには違いないので普通に力と呼んでいる」

とのことでした。

さらに先輩は「内力」という言い方をすることもありましたね。

形の詳細や実戦性に関する紹介する動画はもちろん面白い。でも、その基礎となるはずの、『力』について、動画の先生方のご意見や体験などについて少し聞いてみたい、知りたいと思いますね。

徐尚田老師の動画などを拝見すると、この『力』の一端を垣間見ることができます。でも、こういう先人の「力」を体験した人の感想や感覚も伺ってみたい。

最近、格闘家・武術家の熊澤伸哉先生が紹介された一連の詠春拳動画のいずれかのテロップに「筋の緊張緩和のコントロール」というようなキーワードがさりげなく紹介されていました。これは詠春拳を習っていたとき以来久々に聞いた言葉で、スクール内では安易に口外しないように伝えられていたものでした。

果たしてアランジョ先生が伝えたものなのか、熊澤先生が独自に研究され、気付いたものなのか。私が知る限り、このキーワードについては30数年ほど前に出版された、とある武術系雑誌の記事内でさりげなく触れられていただけのはず。すごく勉強されているなあと驚いた次第です。

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