末端が先か、体幹が先か

虎拳
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「手が先」と「体幹が先」の比較

最初に高校の空手道部で習った剛柔流空手道の基本はまさしく「体幹が先」の印象でした。

実際には体幹に先立ち、足を決めて、腰を切り、最後に突きが飛ぶ、という印象です。でも、その当時に私たちが参加している空手道の大会で使われる技は明らかに違っていました。突きは「手」が先に飛んで、その勢いに胴体、足が引っ張られてついていき、最終的に「伝統的な形のように」決まるという印象だったのです。

残念ながらその当時はこのあたりのことが具体的に分かっておらず、県大会はなんとか突破できても全国大会では箸にも棒にもかからない成績しか残すことができませんでした。このとき、この両者の違いをもっと意識して練習していれば、あまりスポーツが得意ではなかった私でも、もう少しいい成績を残せたのではないかと思います。

正直、武道を始めた当初は、前者のように足を決めて、胴体を安定させてから攻撃に移るという空手の基本の動きはしっくりくるものでした。そういった練習する中、高校時代に入手したブルース・リーの「魂の武器」に書いてあった、「前足を地面に着く前に拳を相手に当てる」というような記述について、非常に驚いた記憶があります。「拳が当たる前に前足が着地すると、拳に流れるべきエネルギーが足を伝って床に流れてしまう」からだそうです。これは必然的に、手が先に走る動きになりますね。

ただ、足が先に地面につくやり方についても、別に根拠はあります。前進して足を着いた瞬間に急激にブレーキがかかることで、脱力された拳が前に勢いよく飛び出すからです。例えは悪いのですが、交通事故で何かにぶつかったとき、四輪や二輪の乗員が勢いよく前方に吹っ飛ばされていく、あの感じと似ていますね(シートベルトが重要な訳です)。

以前「逆腰」で紹介したような、先に腰を切ることも、インパクト時に逆方向の腰の回転がかかることで、手首や肘、肩の関節が開いていく速度が鞭のように加速される利点があると思われます。さらには、突きと腰の方向が逆になることで体が流れにくく、高速での連打がしやすい利点もありそうです。以前、足と手が同側で動く(?)という「ナンバ歩き」がもてはやされたことがありましたが、これが本当なら不自然極まりない動きになります。逆腰は、歩行時に足と手が反対方向に振られるのと同じ考え方で論じるなら、合理的と言えるのかもしれません。

私は末端派、かも

さて、両者の比較はそれくらいにしておいて、現在の私は「末端が先」的な感覚を重視しています。

高校時代くらいに手に入れたブルース・リー関連のムックに、彼がアメリカでオーディションを受けた際に

“Gung-fu punchi is like an iron chain with an iron ball attatched to the end…(グンフーのパンチは鉄球が先に付いた鉄の鎖のようなもの)”

と述べていたのを見て、「では腕は完全に力を抜いて、体幹を使って鎖のように振るんだな」と解釈しました。体幹が先のイメージです。

でも、詠春拳を習い始めると、先生や先輩の言うことが、私のイメージと全然違う。

手そのものを放り投げる感じ

だというのです。その説明に、どうやら「拳が先である」という印象を受けました。

ただ、当時の知識や体験では、この考えだと、肩や上腕の筋肉を駆使して拳を飛ばし始めることになるので、いわゆる「鎖+鉄球」にはならないんじゃないか、という気がしましたけども。でも、これはこれで、慣れると確かに「鎖+鉄球」の感覚そのものなのです。いまの私はこの感覚なので、以前のように胴体を前進させたり波打たせたりするより先に拳を飛び出させるような打ち方で練習していますね。

このような打ち方には中国武術用語で「蓄勁」の概念も重要になりますが、また別の機会に私が考える蓄勁を紹介してみたいと思います。おそらくは、詠春拳では小念頭、剛柔流空手道では三戦と転掌を正しく練習することが非常に重要になってくると思います。

もう一つ、末端が先の例として私が見つけたのは、”Bruce Lee’s Fighting Method Vol.2″に紹介されていた”Forward Burst”という技術です。指、手が先に飛び出し、肘、肩、胴体を勢いよく前に運んで、それに両足が付いてきて結果的に素早い移動が可能になるというのです。

最初はそれこそ?? という感じでしたけども、感覚をつかむとこれが何と自然なことか。このForward Burstにサイドキックを組み合わせたりするわけですが、これと同じ方法について、実は詠春拳でも習いました。

本当は外で試してはいけないのですが(この点は先生にも批判されましたが、当時は若くて)、20代の頃は同じくらいの修業年数の他武道の方々とよく技の交換をしていて、Forward Burst → Side Kickをよく決めていました。公園で練習することが多かったし、防具も着けていなかったので、そんなに強く蹴っていなくてもそのまま組手が続行不可能になることもよくありました。本当に吸い込まれるように、足が相手のボディに食い込んでいったからです。

今では私も年ですし、息子に軽く相手をしてもらうくらいの練習しかしていないのですが、特に距離がある状態で体幹が先の動きをすると、反射神経のいい若い相手には単発の技もコンビネーションも結構避けられてしまうんですよね。でも、末端が勝手に先に飛んでしまうようなイメージで打つと高確率で当たります。相手も準備が出来ていなくて、面白いように崩れることもありますね。

このブログは、用法を紹介することが目的ではないので(そもそも私はそんなに用法は知らないし…)、手が先に走る利点の紹介はこれくらいにしておきますが、こんな体験から私自身は末端先導の動きを重視しています。もちろん、状況に応じてそれだけで全部済ませる、というわけではないのですけれども。

他に、末端から操作する場合の知見や、体幹から末端に力を伝える際の利点など、お持ちの方がいたらぜひ教えてください。

余談1

上に紹介したForward Burstについて知る前に、私は南郷継正という方の書籍にも出会っています。

この方はブルース・リーのことをけちょんけちょんにけなしていて、実力は空手初段にも及ばないというようなことを自著に書かれていました。Forward Burstからのサイドキックについても、あんな飛び込み横蹴りが有効な訳がないとして、わざわざ弟子に映画「燃えよドラゴン」の飛び込み蹴りについて分析させ感想文を書かせていたりしました。

ブルース・リー映画の飛び込み横蹴りについては私自身も同じように考えた時期もありましたが、やはり技というのは体感してみることが重要です。

映画のスローモーションの1シーンを分析して「使えない」「簡単に避けられる」「したがって、こんな技に頼るブルース・リーは弱い」みたいな結論を導くというのでは、ちょっと乱暴…というか、体験を避けて頭でだけ考えがちな人の陥りやすいミスなのかな、という気がしました。自分自身で「映画と実戦は違う」としておきながら、映画の技法だけを分析して導かれた、実用的にネガティブだという結果を誇らしげに披露するところもなんか矛盾してませんかね。

実際、この技を練習した身としては、南郷先生と学生さんの分析は的外れなものにしか見えなかったです。

最近は、その「燃えよドラゴン」で共演した故アーナ・カプリさんが所有していたフィルムをYouTubeでも見られるようになりました。その中に、全米空手トーナメントで好成績を収めているロバート・ウォールさん相手に、ブルース・リーがこのForward Burst + サイドキックを数回決めるデモ映像が収録されていました。ロバートさんのような実力者でも反応が遅れて、サイドキックがまともに入ってしまっているのです。もちろん、ブルースの猛烈な速さもその理由のひとつだとは思いますが、何回繰り返してもどう来るのか、全く読めていない、という印象でした。

この動きはサイドキックに限ったものではないので、考えすぎて変な結論を出すより先に、截拳道の実力がある人のストレート・リードやサイドキックを実際に体験してみたりするといいと思います。

もちろん、この考え方は截拳道に限ったものではないので、ポイント制のスポーツ組手に「真剣に」取り組まれている方にお願いして順突きや前蹴り、回し蹴りなどを「自身を的に」実演してもらうと、きっと驚かれると思います。

余談2

私が最初に習ったのは高校時代の剛柔流空手道であり、その基本で学んだのは体幹から力を末端に伝える方法でした。しかし、最近は、「沖縄空手は手が先だ」という話を聞くようになりました。

所属した会派の長であった師範は、沖縄空手を修行していてとても有名な方だったので、もしかしたら本来はそういう動きをされていたのかもしれませんが、私自身は下部組織の部活動に過ぎず、滅多にお目にかかる機会はありませんでした。

私と仕事のパートナーが共同で管理している exfit TV でも、最近は沖縄古武道などを紹介しているので、何かの機会に詳しいお話を伺えないかな、と思っています。

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